フリーランス新法にどう対応するか?

経済

 先の国会で可決されたフリーランス新法が2024年11月1日より施行されます。

 これがどういったものか詳細は厚生労働省公正取引委員会の該当ページなどをご覧いただければと思いますが、ここではフリーランスの立場から実務上やらなければいけないことにポイントを絞ってお伝えしておこうと思います。

(参考)フリーランスの定義

出典:厚生労働省のチラシ

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フリーランス新法の要点

 厚生労働省のチラシによると、発注側の義務項目として以下が指定されています。

  1. 書面等による取引条件の明示
  2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払
  3. 禁止行為
  4. 募集情報の的確表示
  5. 育児介護等と業務の両立に対する配慮
  6. ハラスメント対策に係る体制整備
  7. 中途解除等の事前予告・理由開示

 この中で、事前に対応しておかないとトラブル発生頻度が高そうなのは「1.書面等による取引条件の明示」になります。今回はこれのみ記します。

取引条件の明示とは?

 なんとなく口頭だけでやり取りして「言った言わない」になったことは誰しも多少は経験があることでしょう。そしてその場合、立場の弱いほう(ここではフリーランス側)が一方的に負けます。こういったトラブルを防止するために取引条件を事前に明確にしておきましょう、というのが新法の趣旨と思われますが、その「取引条件」とは具体的には以下の項目を明示することです。

No.項目
1業務の内容
2報酬の額
3支払期日
4発注事業者・フリーランスの名称
5業務委託をした日
6給付を受領/役務提供を受ける日
7給付を受領/役務提供を受ける場所
8検査完了日
9報酬の支払方法に関する必要事項
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現実的な「書面等による取引条件の明示」への対応

 「せいぜい数時間で終わるような発注でいちいち契約書とか作ってたら、そっちのほうが時間がかかる!」「契約書ってほとんど作ったことがない」「めんどくさい」など様々な意見があるのは分かります。ただコンプライアンスの観点からは法律ができた以上は対応するしかないでしょう。ただそんなに心配することもありません。以下のような対応をすればいいのです。

メールやSNSで取引条件を送付する

 契約書を作るのが一番いいのですが、ある程度取引実績があってお互いに信用度が高い場合や、小さいスポット的な仕事であればそこまでするのも確かに手間がかかります。そういう場合はメール・SNS(LINEなど)などで送付するのも問題ありません。要するに上述の項目を満たせばいいので、極端な話、下記をコピペして内容を修正後送付しても大丈夫なのです(本当にコピペする場合は、条件をきちんと修正して見直してください)。

お世話になります、xxです。今回の取引条件については以下の内容でお願いします。
・業務の内容:xxxxに関する委託
・報酬の額:xx,xxx円(税込 or 税抜き)
・支払期日:20yy年m月d日
・発注事業者名:xxx会社
・業務委託をした日:20yy年m月d日
・給付を受領/役務提供を受ける日:20yy年m月d日
・給付を受領/役務提供を受ける場所:直納、現物送付、電子データ送付etc
・検査完了日:20yy年m月d日
・報酬の支払方法に関する必要事項:支払期日までに指定口座に振込み(振込手数料はxx持ち)

 発注事業者側が取引条件を明示するのが義務ではありますが、明示してくれない場合は、フリーランスの側から「まとめると、こういう条件になりますか?」と上記を示して逆にメールすることをお勧めします。法令遵守という意味はもちろん、自分の身は自分で守ることに繋がりますし、コミュニケーションロスを少しでも減らしてスムーズに業務を受託できる効果もあるはずです。それすら嫌がるようなところとのお付き合いは考え直したほうがいいのかもしれません・・・。

契約書を作成する

 やはり金額が大きい場合や、長期間に渡る場合などは契約書の締結が望ましいです。これまでのものがあればそれを流用してもいいですし、何もなければ「契約書 雛型」とか「契約書 テンプレート」あたりで検索すれば、無料のものがいくらでも出てきます。それをベースに上記の「取引条件」の不足があれば追加するなどして、この際自分だけの契約書テンプレートを作っておくのがいいでしょう。

 なお契約書のやり取りは紙でのやり取りと電子的なやり取りの2つがありますが、これは少し長くなるので別の投稿でお話したいと思います。

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取引条件の各項目の要点

この「取引条件」についてそれぞれ考察します。

1.業務の内容

 業務範囲をできるだけ詳細に記載します。ポイントは定量的な数値を使うことです。例えばデザイナーであれば「~と同程度のデザインを修正〇回まで」とか、Webコンテンツであれば「ページ数〇枚(〇文字以内)」「画像コンテンツ数〇個」「動画コンテンツ〇分以内、編集は〇回まで」といった内容です。フリーのカメラマンなら「改修〇回まで」とか「現場写真〇枚まで」、プログラマーなら「追加機能は〇時間でできる範囲内まで、それ以上は応相談」などになるかもしれません。なお特に初回取引の場合は契約書の参考書類としてサンプルやこれまでの成果物などを示して「これと同程度」と示すと、発注事業者側にも分かりやすいかもしれません。また、今まで痛い目に遭ったことがあればそれを念頭に置いた条件付けをしておきましょう。

2.報酬の額

 これもどこまでが報酬の額かをできるだけ詳細に示しておきます。特に現場に行く必要がある場合の宿泊・交通費の扱い、消費税の扱いなどは必ず記載しておきましょう。

 ちなみに免税事業者の方は「なぜあなたは免税事業者なのに、うちが消費税を払わなければいけないのか?」と言われる場合もあるかもしれませんが、その場合は「仕入や経費などでこちらも消費税を支払っているので、いただくことにしている」と言えばいいです。実際そうでしょうし、免税事業者であっても消費税を請求してはいけないという法律にはなっていませんので😓

3.支払期日

 「〇年〇月〇日まで」とか「納品日から〇日以内」とか「納品日の翌月末まで」とか言った支払期日です。ちなみに新法では納品日から60日以内と決められていますし、資金繰りの観点からもそれ以内にしておくのが良いでしょう。

4.発注事業者・フリーランスの名称

 これはそのままですが、間違いないよう正確に記しましょう。なお新法とは関係ないですが、たまに相手先の会社名を(微妙に)間違える方がいらっしゃいます。これは大変失礼なことですので絶対に避けるべきでしょう。

5.業務委託をした日

 作業開始日もしくはそれより前の日付を入れましょう。

6.給付を受領/役務提供を受ける日

 役務の場合はいつからいつまでの何時から何時までなのか、納品物ならいつまでに納品するのか?といったことです。

7.給付を受領/役務提供を受ける場所

 役務の場合は作業場所ですね。納品物ならその方法が郵送なのかメールなのか直納なのかといった受け渡し方法を明示します。

8.検査完了日

 検査が必要な場合に指定します。これは意図的かどうかに関わらず検査(≒納品チェック)が終わってないことを理由とした支払の遅延を予防するためです。例えば「納品日から〇日以内の検査とする」といった内容になるかと思います。

9.報酬の支払方法に関する必要事項

 今はほとんど銀行口座への振込みなると思いますので、振込してもらいたい銀行の口座情報を示します。なお、特定の業種では受注側が振込手数料を負担するこという「暗黙の了解」があり、勝手に振込手数料分を差し引いて振込んでくる事業者もいますが、民法(485条)では特段の取り決めがない場合は、振込手数料は債務者側(発注事業者側)が負担することになっています。いずれにしても、振込手数料の扱いも明示しておくのが望ましいです。

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最後に

 自分の身を守るためにもこれを機に口頭による曖昧な契約状態から、書面による契約をしていけるように動いていきましょう。ちなみに発注事業者がフリーランスである場合、つまりフリーランスがフリーランスに発注する場合もこの法律は適用されるのでご注意ください。

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